2020年12月19日
日本DAISYコンソーシアム技術委員会
本文書は、EPUBアクセシビリティにおけるルビ表示に関する要求仕様です。
ここでは本文書で用いる用語を定義します。
世界中には様々なPDが存在し、それぞれのPDに対処する方法は様々です。ルビのアクセシビリティについては、ルビによる読み情報の提供により対処できるPD、逆にルビがあると読みにくくなるPDに大別できます。
親文字にルビによって読みについての情報が与えられれば、内容を理解できるPDがあります。このようなPDへの対応として、ルビによる読み情報を付与しルビを表示できるようにしなければなりません。
親文字とルビの区別が困難であるために、ルビが付与されていると文字の認識が困難なPDがあります。このようなPDへの対応として、ルビを削除する、あるいはルビを表示しない対応が必要です。あるいは、後述のように親文字の代わりにルビの文字列を表示する混ぜ書きの方が読みやすいPDも存在し、このような表示方法の切り替え手段も必要です。
ボーンアクセシブルな出版を実現するためには、スタンダード表示と最適化表示を切り替え可能なしくみが必要です。
ルビに関する最適化表示としては様々な表示方法があります。また、後述のように読みに関するルビを表示しない最適化表示の方が読みやすいPD、あるいはルビを親文字の代わりに表示した方が読みやすいPDも存在します。障害内容に応じて様々な最適化表示方法を切り替えられることが重要です。
例:
スタンダード表示状態
東京府本郷区向ヶ岡弥生町で発見されたため弥生土器と呼ばれます。
読み情報をルビとして必要とするPD向けの最適化表示状態
東京府本郷区向ヶ岡弥生町で発見されたため弥生土器と呼ばれます。
通常の出版物では次のようにスタンダード表示における表現としてルビが使用されています。
これらのルビはスタンダード表示の状態では表示されていなければなりません。したがって、スタンダード表示の表現におけるルビと、アクセシビリティの対応として付与した読みを示すルビは、区別した形式で付与する必要があります。
スタンダード表示に読み以外の情報を示すルビが既に付与されている場合に、同一の親文字に対して読みの情報も付与して表示しなければなりません。
親文字の上下の片側にルビの空きがある場合には、空いている側に読みに関するルビを付与する方法が考えられます。両側ルビが読みにくいPDも存在するため、スタンダード表示のルビを親文字の後ろに括弧書きし、PD向けの読み情報をルビとして表示するしくみも必要です。
例:
スタンダード表示
両側ルビによるPD向け最適化表示
両側ルビが読みにくいPD向け最適化表示
ルビが親文字の読みを示すものなのか、あるいは義訓やインライン アノテーションのように親文字の読みとは異なる情報を示すのかは重要な情報です。PD向け表示や、ルビ非表示のPD向け表示の際に、スタンダード表示ではルビで表示される読み情報以外の情報を括弧書き等で表示するには、ルビが親文字に対する読み情報かどうかを示す情報が必要です。
ルビが付与されていると、ルビが本文の文字の一部として認識してしまい、読みにくいというPDがあります。このため、ルビを表示しないで本文を表示する表示方法が必要です。
ルビの非表示の際に、著者の意図により特殊な読みを示すルビや、読み以外の情報を付与するルビについて同時に非表示とした場合には、重要な情報が欠落してしまいます。情報の欠落はアクセシビリティの観点では好ましくありません。ルビを非表示とした場合でも、読み情報以外のスタンダード表示ルビの情報は、括弧書きの形により表示できるしくみが必要です。
例:
スタンダード表示状態
ルビ非表示のPD向け表示状態
教科書を始めとする学習上の教材については、未修学の漢字について親文字の漢字に対してルビを付与する以外に、漢字部分を平仮名の形で表記する場合があります。このように複数文字の熟語に対して一部の漢字を平仮名の形で表記する方法を混ぜ書きと呼びます。
識字障害等の読者にとってはルビよりも混ぜ書きの方が読みやすい場合があります。あるいは、すべて平仮名で記載した方が読みやすい場合があります。以下に具体例を挙げます。
まぜ書き | こん虫 |
---|---|
すべて漢字 | 昆虫 |
すべて平仮名 | こんちゅう |
混ぜ書きにルビ | こん虫 |
一部の漢字にパラルビ | 昆虫 |
すべて漢字に総ルビ | 昆虫 |
一部の漢字に読みを括弧書き | 昆(こん)虫 |
すべての漢字に読みを括弧書き | 昆虫(こんちゅう) |
上記の中で、どの最適化表記が一番読みやすいかは定まらず、障害内容や学習進度等によって決まります。したがって、「昆虫 」という記述を、リーディングシステム側の設定変更によって上記のように様々に表示形式を変更できるしくみが必要です。
スタンダード表示で用いられるルビの表示方法では、内容の理解が難しいPDがあります。以下のように最適化表示では個々の障害の状況に応じてルビの文字色、フォント、文字サイズ、親文字との距離、小書き表示などがカスタマイズできなければなりません。
親文字とルビの色をそれぞれ別の色で表示すると、ルビが付いていても文字が読めるPDがあります。このため、リーディングシステムには親文字とルビの文字色をそれぞれ個別に指定する機能が必要です。
多くの場合ルビは親文字よりも小さな文字で表示されますが、この状態ではルビが読みにくいPDがあります。このようなPDは、ルビの文字サイズを大きくしたり、ルビを縦長のフォントで表示すると読みやすくなります。リーディングシステムにはルビの文字サイズとフォントを指定する機能が必要です。
ルビと親文字との距離を離すことで文字が読みやすくなるPDがあります。リーディングシステムにはルビと親文字との間の距離を指定する機能が必要です。
現代日本語では拗音及び促音に用いる「や・ゆ・よ・つ」の表記は小書きにされますが、ルビについては小書きではない表記が使用される場合があります。アクセシビリティの配慮として付加するルビについては、読者の読み情報(フリガナ)あるいは発音の正確性を担保するため小書きの表記を必要とする人もいます。逆に小書きでない表記を必要とする人もいます。
リーディングシステムにはスタンダード表示に加え、ルビのアクセシビリティ対応として前述のような様々な最適化表示を切り替えられる機能が求められます。
また、EPUB アクセシビリティ - ルビ発見要求仕様 1.0に記載されている、ルビの発見要求に対応し、次の機能が必須です。
ルビに関する最適化表示は前述のようにPDによってどのような表示方法が良いかは様々です。ルビに関する最適化表示については、様々なニーズのPDに対応するため、できるだけ多くのバリエーションに対応できるような実装が求められます。
以下に、本要求仕様で言及された文書を示します。